書籍「さよならインターフェース」を通して、まず「この媒体で作る」をやめる仕事論

Pocket

今回は「さよならインタフェース」という本の紹介をしつつ、「webを作る、チラシ、ポスターを作る。といった思考」をやめる、デザインの仕事の進行・考え方を【自論で】ご紹介します。

本記事は「本質を考える」「目的を考える」「周囲を見る」の3パート。その中で「書籍紹介パート」と連動して「私のお仕事自論」を語っています。

デザインを発注する人、設計する人、作る人、デザインに興味がある人に読んでもらえたら嬉しいなと思ってます。

こちら、スダ Advent Calendar 2016 12/7の記事です!

さよならインタフェース

books

「画面や紙面を指定されてそれを作る。そうしているうちに、本来の目的を忘れたり、本来の目的をどう効果的に達成するか考えられなくなる。
流行りに流されて伝わらなくなったデザインや、見た目に捉われ目的を見失ったデザインを、実際の実例をもとに「どうすればよかったのか」心理学やデータに基づき紹介していく一冊」

媒体とは「メディア」のこと。

例えばポスター、テレビ、ラジオ、新聞、web、POP、DM、パッケージなど制作物を落とし込む世界を指しています。

1.媒体を決める前に「対象」の本質を考える。それは「対象」に似合うのか。

※対象とは「クライアントさん」「サービス」「人」など、デザインする対象を指します。目的や問題解決の話ではなく、目的を立ててるそのものです。

さよならインタフェースの紹介パート

アプリで13手順。手動で2手順。それ、アプリにする必要あった?

冒頭から衝撃的な話が始まる本書は携帯アプリ流行に乗ってつくられた「車の鍵を開けるアプリ」について解説があります。

アプリ使用時の流れを丁寧に10ページ、図を使って紹介します。「やっと鍵が開いた」と思うのもつかの間、次のページでは「アプリを使わなければ、1.鍵を取出す 2.開ける。手順はたった2つだ」と一蹴してます。

apri_03

アプリが流行ってるからアプリを作った。でもそれだけ。
※本書ではこれに変わる良い手段も実例に基づいて紹介されています。

このお仕事の本質や目的は何でしょう。アプリはユーザーの利便になったのでしょうか。 流行に流され、伝わらないものが出来上がるのは本末転倒です。

本書と連動して考える私のお仕事論

本質を見ず流行に流されたあとの恐怖

「流行を真似れば人気になる」という価値観は危険です。 真似が合わず派手な失敗になると今後の評価はゼロ。いや、マイナスかも。 「あの事件のあの会社だ」と思われると、失敗を取り戻すのは大変です。

情報を集めるほどに、本質が浮き上がってくる。

知らないことは伝えられません。誰かの真似をするしかない状態から、自分を伝えるにはコレが良い!までたどり着くために、自分を知るのです。 そうすることで、やっと「自分にあった戦略」と「強みの活かし方」が見えて来ます。

  1. ・伝えたい物体の「中身」は何なのか。
  2. ・強みは何か
  3. ・強みは誰に好かれるのか
  4. ・強みは他と戦って負けないか。
  5. ・欠点は何か
  6. ・欠点は利点になり得るか
  7. ・欠点は誰に嫌われるのか
  8. ・他にない武器は何なのか
  9. ・どこでどれだけ戦えるのか。
  10. ・戦える期間を終えた、その先はあるか

実際に人の意見を聞いても、自分で触れても、考えを組み合わせてもいい。知ることを繰り返しグルグル調べ続けます。

しっかり掘り下げれば「誰に」「何を」してあげるべきか、浮き上がってきます。そのとき起きた発想が媒体選びとデザインの始まりです。

軽い気持ちで真似をして失敗した事例

情報量満載のポータルサイトやECサイトを初心者向けにシンプルにしたい。「よし、シンプルなgoogleを参考にサイトをろう!という価値観は早計です。
検索バー(フリーワードサーチ機能)だけ置いて「カテゴリ検索をなくせば選択肢が狭まる」という考えが、とあるお仕事で上がりました、が実際に効果を見てやめる事になりました。
私個人から見ると「なんでも探せる」ことは選択が無限である事に思えます。

googleは検索エンジンだから検索バーを最初に見せるのが活きる。
無理やり似合わない流行の服を着せるのを避け、自分らしさを見つけましょう。

2.媒体選定の前に目的を考える。その媒体を作れば目的を達成できるのか

さよならインタフェースの紹介パート

街中の天気予報画面つきゴミ箱。雨に濡れ、雨の天気予報を見る気分は?

本書のP.56〜は、様々な「無意味な画面設置の事例」への皮肉が書かれてます。

参考画像は470万円の「天気予報画面つきゴミ箱」をオリンピックに向けて100か所においた国のお話です。 外に置かれたゴミ箱には雨のマーク。そのゴミ箱の予報を「雨宿りしながら」見るのです。

box

これについては、色んな理由があっただろうから批判はしません。 ただ一つ。別の方法を選べたのでは?という事を考えたいです。

本書と連動して考える私のお仕事論

目的は何か、その方法で達成できるのか

デザイナーとして会社に所属すると「サイトを作る、チラシを作る」と依頼が来ますよね?作る前にその媒体が効果的か疑問を持つのも一つの手です。

【例えばの話し】アンケートの返信を求めるDM

「DM(ダイレクトメール)を作りたい。」と依頼された時の実話です。

私はヒアリングでは必ず「何を達成したいのか」を聞きます。(営業さんと相談して打ち合わせにもでてました。)
「何が起きれば成功か(ゴール設定)、期間は?誰に見せたい?」と言った媒体選定の前にあるはずの「目的」についてどんどん掘り下げます。

すると「このDMではアンケートの返信が少なく、見た目を変えて効果を上げたい。」と返答が。
もっと掘り下げて聞くと同封する返信用のアンケート用紙がありました。

同封される予定のアンケートは…

・アンケートは2種類。2種類の記入欄は複雑に混ざっている。
・記入方の説明もそれぞれ複雑に混ざり、記載されている。
・最後に小さく返信方法が記載されている。

本質的な改善を行う制作をしよう

もしかしたら、このアンケート用紙を書き手にとって優しい見せかたにする方が効果的なのでは?とお客様に相談してみました。

提案は通り、DMは変えないで、アンケートのテンプレートのみ作り替えました。情報整理し、目立たせる所をはっきりさせる。それだけで返信が増えました。

最初の見積もりより安いお仕事となり、予定より私の売上げは下がったのですが、その後、企画段階の相談が増えて大きな仕事につながりました。 効果を出したからこそ、次も依頼を(しかも上流工程から)貰えたのです。

さて、これから作るデザインを落とし込む「媒体」は、目的達成において最適か、効果的か、ぜひ考えてみてください。 (クライアントさんの意図が固まってる場合「そもそもの話」は不要ですが、気になったことを聞くのはリスクヘッジになるので質問は是非してみましょう!)

3.媒体の周囲を先に見る。周囲を知ることでデザインの効果を上げる

さよならインタフェースの紹介パート

選べるから、選びたくない。選択肢の量が不満と間違いの元になる。

本書後半の章では、ある実験の結果が書かれています。30種類の中から一つチョコを選ぶAグループと、6種類の中から1つチョコを選ぶBグループの実験では、選択肢の多いAの方が不満と後悔が多かったと記載されてます。
また、ボタンが多い洗濯機を事例に「複雑さ、ミスの誘発、見難さ」について触れ、良い手段として見た目ではなく作りそのものを見直した実例も書いてあります。

washbox

媒体ではなく、その周囲(やり方など)が複雑だった場合、どうすればいいのでしょうか。

本書と連動して考える私のお仕事論

周囲(やり方)が分かり難いまま、媒体を置くと余計ややこしい

売上げが上がらないから「POPを作りたい」という依頼を受けた時の実話です。 食べ放題サービスを行っている店舗のレジ横で買えるメガサイズお菓子。満腹でも買いたくなるシチュエーション想定からお手伝いさせてもらいました。

が、心理的なデザイン設計の話は置いといて、この依頼を受けてすぐ「どこでどんな形で使うのか」質問し、見せてもらいました。「どこに置くか」はデザインに欠かせない要素です。

POPと品を置く棚を見て感じたのは「陳列の情報整理が先だ」ということです。

現状の配置で気づいたこと

・小さいものが後ろに入って隠れてしまっている。
・カテゴリ分けがわかりづらい。
・手の届かない位置までぴっちり陳列されている。

本質的な改善を行う制作をしよう

配置を見直すことで、手に取りやすくなりそうです。その整理の補助としてPOP作成を行えば効果も上がりそう。 早速、お話をした上で陳列から提案をさせてもらいました。

改善したこと

・陳列する品の総数を取りやすい量に減らす。
・奥まで詰めず、手前に配置。わざと棚いっぱいに使うのをやめました。
・「手の届かない所」「しゃがむ必要のある所」の陳列をやめ、その部分に販促ツール(POPなど)を設置。
・特大サイズのお菓子だったので、「一目両全、比較の図POP」を作成。
・全体のテーマを作り、訴求を明確に。
・品のカテゴリを色で分けました。

現状の複雑さを解消せずに表面だけを飾ると余計ごちゃごちゃすることもあるので、根本を見直すところから相談できるとそこに置くデザインは、より輝くのではないでしょうか。

その他、消防法や色のルールなど細部まで気をかけたのですが、そのお話は機会があれば、また別で。

さいごに

クライアントさんの意図が固まってる場合「そもそもの話」をすることはそんなにありません。 相談していただいた時、なにか違和感を感じた時、話合ってみることを大切にしています。 (気づいた問題点はやんわり言わせてもらってます。)

勝手にやるのではなく、相談すること!制作時間や作業者数を考えて、別案作りに走る前に話し合うことを大切にしています。 相談なく作るのであれば、まずご希望のものを作って、自分の提案を別案で添えることがポイントです!(押し付けは良くないですね。)

また、あくまで自論なので、そちらもご理解くださいませ。

「さよならインタフェース」は心理学や実際のテストに基づいたデザインの矛盾や実例について多数触れられています。人は平均、1日/150回スマホをポケットから取り出しては開くお話とその弊害や、紙と画面で違う脳の動きのお話早くいくつもデザインを作るという事への違和感などなど、興味があれば是非。オススメの書籍です!


スダ Advent Calendar 2016との関わりについてですが、ここのテーマになってるスダと私は友人で、デザインについて下記の記事を書いたりしてました。

デザインにおけるおしゃれとは何なのか(スダの記事)
デザインはマーケティングに含まれる。「何かを伝える」目的があり「見た目」は手段である。(私の記事)

この延長で、もっと実例に近いものも書きたいなと思ってました。 そんなこんなで、読んでくださってありがとうございました!

Pocket

たじま ちはる

画像:たじまちはる

マーケティングとデザイン

ヒトとモノとコトを最適な形で伝えるために、戦略、マーケティングを理解し、目的を達成するためのデザインを行う。
デザインの設計という面を伝えること、デザインとその周囲をつなげていくために、登壇や個人メディアでの発信にも力を入れている。